通訳者に求められる「専門知識」はどの程度か?

翻訳者に求められる「専門知識」はどの程度か?

通訳者は、言語の専門家です。
だからといって、言語能力さえ高ければ優秀な通訳者か、と問われるとそうではありません。

通訳者には、言語能力だけでなく他の分野の専門知識が不可欠です。

この記事の目次

なぜ通訳者には専門知識が求められるのか

ポケトークなどの音声翻訳機

私たちプロの通訳者が、日常会話を通訳する場面はほとんどありません。
なぜなら、単なる日常会話を通訳するのに、安くない通訳料金を払う依頼人はいないからでしょう。

日常会話のようなケースであれば、無償のボランティア通訳や友人に頼むこともできるでしょうし、現代ではポケトークなどの音声翻訳機やGoogle翻訳アプリがじゅうぶんな役割を果たします。

したがって、通訳者が必要とされる場面のほとんどは専門分野です。
医療、金融、特許、法務、学術、ITなど、通訳者が必要とされる場面は多岐に渡ります。

通訳者は、自分が理解できない内容は通訳できない

誤解されることが多いのですが、「言語ができるのだから、どんな内容でも即座に通訳できるのだろう」と思われることがあります。
それはまったく正しくありません。

通訳者は、内容を理解していないと正確な通訳ができません。
そのため、通訳者はみなそれぞれ得意とする専門分野を持ち合わせています。

完全な専門知識を持ち合わせることはできない

電気技師や機械技師

では、通訳者はどの程度の専門知識を持ち合わせている必要があるのでしょうか。

例えば、弊所では、電力業界のお手伝いをさせていただくことが多いのですが、私たち通訳者がエンジニアと同等の専門知識を持っているかというと、そうではありません。
その道何十年のキャリアを持つエンジニアの方々は、学生時代からその分野について勉強し、社会に出てからも実務経験を積んできた人たちです。
門外漢の私たちが、彼ら・彼女らと同じレベルに到達するのは土台無理な話です。

それに、「電力業界」と一口に言っても、無数の専門分野に分かれます。
電気技師と機械技師では専門知識がまったく異なります。
発電と送電では業務内容が違いますし、発電方法も火力、原子力、水力、風力、地熱、バイオマス、太陽光とさまざま。
そこに使われている機器やそのメーカーが違えば、扱い方も用語も異なります。

また、私たち通訳者は、同じ内容の通訳を繰り返すことはほとんどありません。
専門分野に特化しているといっても、案件によって通訳する内容は毎回異なるからです。
あるときは現場で機械のトラブルシューティングに携わり、あるときは本社で重役の会議に出席して金額交渉をし、あるときは結線図を読みながら作業手順を説明し、あるときは製品の営業トークを通訳する、と枚挙にいとまがありません。

したがって、現実問題として、通訳者はひとつの分野を掘り下げて勉強する時間がありません。
案件のたびに、広く浅く勉強し、通訳に支障が出ない程度の知識を頭にたたきこんで現場へ臨みます。

「通訳に支障が出ない程度の最低限の専門知識」とはどの程度か

通訳の理想の形は、スピーカーの意図するメッセージを原型に限りなく近い形で届けることです。
そのためには、通訳者が話の内容を理解し、消化し、必要に応じて適切な註釈を加えたり表現をかみ砕いたりすることもあります。

しかし、上記の通り、通訳者がエンジニアと同等の専門知識を持っていないという理由から、通訳者が話の内容がほとんど理解できないことがあります。
その場合、双方の意思疎通が成り立つ通訳ができれば落第点です。

そのためには、「通訳に支障が出ない程度の専門知識」が必要とされますが、具体的にどの程度の知識が求められるのでしょうか。
重点的に予習するのは以下の2点です。

専門用語、業界用語のリサーチ

① 専門用語を予習する

以下に例文を挙げましょう。

「発電機の回路遮断器を閉にして、電力系統に接続する」

電力関係の仕事に従事している人でないかぎり、理解に苦しむ一文でしょう。
この場合、「発電機」、「回路遮断器」、「電力系統」の3ワードは、日常会話で出てくることのない単語です。
通訳者にとって、1センテンスの中に3ワード理解できない単語があるとほぼアウトで正確な通訳ができません。
対訳語が「Generator」、「Circuit breaker」、「Electrical grid」と瞬時に出てくれば、通訳者が話の内容を理解できなかたったとしても、訳語をつなぎ合わせて落第点の訳文を組み立てることができます。

② 業界用語を予習する

どの業界にも、特有の用語や独特の言い回しが存在します。
現代はインターネットで調べればたいていの情報は手に入りますが、知らなければ勘違いしてしまう用語がたくさんあります。
その結果、誤訳でメッセージがうまく伝わらない、誤解を招くなどの問題が起こり得ます。
先程と同じ例文、

「発電機の回路遮断器を閉にして、電力系統に接続する」
を見ていきましょう。

この場合、「閉」は「ヘイ」と発音されます。
通訳という行為は、文章を読むのではなく音声で聞き取るため、通訳者にとって上記の文章は

「ハツデンキノカイロシャダンキヲヘイニシテデンリョクケイトウニセツゾクスル」
と聞こえるわけです。

「閉」はもちろん「閉じる」ことを意味する一般的な単語ですが、このように予想しない使い方をされると戸惑ってしまいます。
このような知識はインターネットからは得られません。
その業界に精通した通訳者などからアドバイスをもらうことによって得られます。

専門知識を持ち合わせた通訳者をお探しなら、吉田通訳人材事務所

一口に「通訳」といっても、専門分野によって細分化されていることがご理解いただけたかと思います。

通訳とは、日々勉強が求められる職業です。もちろん、一夜漬けの予習だけでは十分ではないので、毎日の地道な勉強が重要であることは言わずもがなです。吉田通訳人材事務所は、「技術分野」および「ビジネス」に特化しています。
技術の専門知識を持ち合わせた通訳者、およびビジネスの流れを熟知している通訳者をそろえています。
ご入用の際はぜひご相談ください。

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この記事を書いた人

吉田通訳人材事務所代表。50以上のアルバイトとスモールビジネス起業を経て、28歳から通訳者として活動。モットーは「海外ビジネスの円滑化」および「包括的なコミュニケーションサポート」。近年は、社会的に不利な立場にあるフリーランス通訳者の雇用増加、待遇向上、市場価値を高める教育に力を入れている。横浜市と米国ダラスで幼少期を過ごし、主に東京都、北海道、豪州シドニーに在住。2023年よりマルタ共和国在住。

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