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歴史的な円安が止まりません。
2024年4月29日付では、34年振りに1米ドル=160円まで下落しました。
この社会現象は、通訳業界にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
「円安」と聞くと、短期的な現象でいつかはまた元に戻るだろうという甘い期待を感じさせますが、現実的には、日本経済はこの30年間停滞したままです。
その間、諸外国は経済成長を続けてきました。
30年前に物価ランキング世界一であった日本ですが、その後デフレスパイラルから抜け出すことができず、今の物価はなんと197か国中67位です。※注釈1
これは、東ヨーロッパ諸国や南米諸国の経済後進国と同程度の水準です。
※注釈1
参考文献:Livingcost.org “International Cost of Living Calculator”(2024年4月29日取得、https://livingcost.org/cost)
ここ数年は日本の物価もじわりと上がってきていますが、賃金は追いついていません。
その証拠に、大卒の初任給はこの20年間ほぼ変わっていません。※注釈2
経済そのものが低調なため、日本企業は人件費を削らざるをえない。
人件費にお金をかけられないため、サービスの量・質が上がらない。
サービスの量・質が上がらないため、売上が伸びない。
売上が伸びなければ、経費削減を余儀なくされ人件費を削る。
日本はこのデフレスパイラルからなかなか抜け出すことができません。
賃金が上がらないのは労働者だけでなく、サービス提供者である通訳者にとっても同じことです。
通訳者側も報酬額を高く要求したいがそれが受け入れられない。
通訳者の大半はフリーランスで活動しており、料金交渉が不得手な方も多いことが原因のひとつでもあるかもしれません。
※注釈2
参考文献:独立行政法人労働政策研究研修機構ホームページ(2024年4月29日取得、https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0404.html)
この市況が続くとどうなるか。
「優秀な通訳者はどんどん海外に流れていって、国内で通訳者が調達できない」という事象が発生するのです。
通訳者の立場からすると、「日本企業を相手にしていると収入が上がらない。ならば海外のクライアントを見つければ高報酬を見込める」という発想になる。
営業力のある通訳者、またはハイレベルな通訳者ほどその傾向が強いでしょう。
自分自身で海外企業に積極的に自分を売り込んだり、ヘッドハンティングされる率が高いからです。
円安が進むとこの傾向は特に強くなります。
米ドルやユーロ建てで報酬をもらえば、日本円に換金したときの実質価値が上がるからです。
現に弊所の事例でも、アメリカやヨーロッパの案件の報酬額は、国内案件と比較して1.5~2倍程度が相場です。
当然ですが、この現象は通訳業界に特有なものではありません。
国の経済が停滞すれば、優秀な人材が海外に流出してしまうのは、どの業界でも同じことです。
しかし、こと通訳業界においてはその傾向が著しく強く、またそのスピードも早いでしょう。
その理由は「語学力」にあります。
当然ですが、通訳者は日本語以外の外国語を1つ以上身につけています。
個人で活動するフリーランス通訳者たちにとっても、海外企業とつながることはそこまで難しいことではありません。
インターネットがある現代では、語学力さえあれば、LinkedinやFacebook等のSNSやポータルを活用して海外の新規顧客を開拓することが可能なのです。
そもそも、日本国民が低賃金労働を受け入れざるを得ない最大の理由は「語学力の不足」です。
日本語しかできなければ、国内で仕事を探すしか選択肢がないからです。
しかし、通訳者は「語学力」という武器を既に身につけているので、海外市場とつながるチャンスが格段に高いのです。
こうして優秀な通訳者たちは日本市場からまたひとり、またひとりと去っていきます。
これはこれから起こることではありません。
既にそのような流れがあるのです。
日本経済が強さを取り戻さない限り、国内の通訳業界の活性化は見込めないでしょう。
INTERP合同会社は、通訳業界において長年の実績を持ち、企業の海外ビジネスおよび人材育成をサポートしています。
グローバル化が加速度的に進む現代ビジネスにおいて、日本人ビジネスパーソンにとって有益なテーマに焦点を当て記事を執筆しています。
実践的なアドバイスや最新の市場動向をお届けし、日本人がグローバルに活躍できる環境を作るために微力ながら貢献してまいります。
INTERP合同会社代表。50以上のアルバイトおよび小規模ビジネス起業を経て、28歳から通訳者として活動。モットーは「海外ビジネスの円滑化」および「包括的なコミュニケーションサポート」。近年は、社会的に不利な立場にあるフリーランス通訳者の雇用増加、待遇向上、市場価値を高める教育に力を入れている。横浜市と米国ダラスで幼少期を過ごし、主に東京都、北海道、豪州シドニーに在住。2023年よりマルタ共和国在住。
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