AI時代に求められる新しい通訳者像とは?

AI時代に通訳者に求められる新しい通訳者像とは?

多くの職業において、AIが人間に取って代わる時代が訪れています。

翻訳業においては、DeepLやGPT-4oなどのサービスが、既に人間翻訳者の代替の地位を確立しています。

当然、通訳業もおいても押し寄せるAIの波を無視することはできません。
今の時代に求められる通訳者は、どのような存在なのでしょう。

この記事の目次

猛烈なスピードで進化するAI通訳

2017年に「ポケトーク」が発売され、海外旅行などの際に簡単な会話を通訳するにはじゅうぶんな機能を備えていました。

7年の月日が流れた2024年6月現在、数々の海外・国内企業が無数のAI通訳サービスをローンチしています。
とりわけ、2025年に控える大阪万博ではAI同時通訳サービスの活用が見込まれており、政府の後押しを受けて急ピッチで開発が進められています。

AI技術は日進月歩どころか秒進分歩で進化を続け、ますます精度を向上させています。

「言語を速く・正確に訳す」のはAIの得意分野

特に、同時通訳においてはAIが真価を発揮するところです。

同時通訳とは、聴きながら訳出をする行為ですので、情報の記憶・解析・訳出という一連の作業を瞬間的に同時並行で行います。
人間の脳みそにとって、負荷が極めて大きい業務であることは想像に難くありません。
トップレベルの同時通訳者でさえ、カバーできるのは原文の70%がせいぜいと言われています。
同時通訳という行為自体が、そもそも人間の能力の限界を超えた業務と言えるでしょう。

その点、AIは人間の脳みそと違って疲れ知らず。
「言語を速く・正確に訳す」能力は、まさしくAIの得意分野と言えるでしょう。
疲労や体調不良によるパフォーマンス低下、ヒューマンエラーなど、人間通訳の弱点をAIはカバーしています。

AI時代に人間の通訳者に求められる価値とは?

それでは、AI時代において、人間の通訳者に求められる価値とは何でしょうか?
それは、下記の2つの条件をカバーするものでなければなりません。

・AIの強みである「言語を速く・正確に訳す」以外の付加価値を提供すること
・通訳者という立場が、付加価値を与えるのに相応(ふさわ)しいポジションであること

その答えのひとつとして挙げられるのが、「本当の意味でのコミュニケーションサポート」です。

AIがカバーできない「本当の意味でのコミュニケーション」

通訳者は「言語の変換をサポート」する存在であることは間違いではありませんが、実際の現場で通訳者が提供しているのは「コミュケーションのサポート」なのです。

以下は、同時通訳のパイオニアでありICU名誉教授でもある斎藤美津子氏の持論ですが、私はそれに深く共感します。

「通訳者は言葉のスペシャリストでなく、コミュニケーションのスペシャリストでなくてはならない」

https://www.communicators.co.jp/mission/

「コミュニケーション」という言葉が含む意味は広範囲に及びます。
広義では、情報伝達や意思疎通を意味しますが、例えば、「関係構築」、「交渉」、「議論」などもコミュニケーションの範疇に入るといって差し支えないでしょう。

これらの課題をAIが解決してくれるでしょうか?答えはNOです。
そして、二者間に入る通訳者こそが、これらの問題を解消するのに最適なポジションにいる人間なのです。

「本当の意味でのコミュニケーションサポート」取り組みの事例

具体的なイメージをつかんでいただくために、一例として弊所の取り組みをご紹介します。

弊所は、「通訳サポート」に加えて「海外ビジネスサポート」を提供しています。
「海外ビジネスの円滑化」を第一優先事項に掲げ、クライアントの「お困りごと」を二人三脚で解決に導く、というスタンスでお手伝いをさせていただいています。

・「海外取引先との関係がうまくいっておらず、打合せで険悪の雰囲気が続いている」
・「欧米のクライアントはトークが達者で、交渉で不利な立場に置かれてしまう」
・「話し合いを重ねているが、どうも議論が嚙み合っていない感じがする」

などなど、クライアントによって「お困りごと」の内容はさまざまです。
課題や目的を丁寧にヒアリングした上で、弊所スタッフがクライアントと取引先の間に入ってコミュニケーションを取り持ちます。
対面・リモートでの打ち合わせ、電話、Eメール、チャットなど、あらゆるツールを駆使してコミュニケーションを構築します。
両者に同席するケースもありますし、代理でコミュニケーションを一任していただくケースもあります。
また、プレゼン資料作成のお手伝いをさせていただくこともありますし、食事に同席することもあります。

クライアントの求めるものを最優先に考え、それを達成するために「本当の意味でのコミュニケーションサポート」を提供することを心掛けています。

時代と共に変化するべき通訳者の形

上記はあくまで一例ですので、他にもさまざまな形の「コミュニケーションサポート」が考えられると思います。

言語変換のみに固執する通訳者がお払い箱になる時代は既に訪れています。
時代が変われば求められるスキルも変わります。
それをネガティブに捉えるのではなく、流動する時代に適応し新しい可能性を切り拓くことが、ひいては通訳業界の発展につながるでしょう。

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この記事を書いた人

吉田通訳人材事務所代表。50以上のアルバイトとスモールビジネス起業を経て、28歳から通訳者として活動。モットーは「海外ビジネスの円滑化」および「包括的なコミュニケーションサポート」。近年は、社会的に不利な立場にあるフリーランス通訳者の雇用増加、待遇向上、市場価値を高める教育に力を入れている。横浜市と米国ダラスで幼少期を過ごし、主に東京都、北海道、豪州シドニーに在住。2023年よりマルタ共和国在住。

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