通訳者が意識するべき「コミュニケーションコスト」

36.通訳者が意識するべきコミュミケーションコスト

私は、通訳エージェントの立場として、また、通訳者として活動していた時期の両方の経験があります。
その二つの視点から見ると、「コミュニケーションコスト」を意識していない通訳者が非常に多いことに気づきます。
本記事では、コミュニケーションコストとは何か、およびその重要性について解説したいと思います。

この記事の目次

コミュニケーションコストとは何か

「コミュニケーションコスト」という単語を聞いたことがない方もいらっしゃるかもしれませんが、ビジネスではよく使われる表現です。
言葉通り、「あなたとのコミュニケーションに割く時間=コスト」という考え方です。

例えばあなたが、通訳の現場に入る前にわからないことがあって、エージェントやクライアントに色々な質問をします。
これに対し、エージェントやクライアントが、あなたの質問に対して電話やメールで回答します。
これは何を意味するかというと、エージェントやクライアントはあなたの質問に答えるために時間を割くというファクトです。
時間を割くということは、そのエージェントやクライアントで働いている人間の労働時間を使用するということですから、会社としてはコストが発生するわけです。

これがコミュニケーションコストです。

日本人通訳者の特徴―裏目に出る「きめ細やかさ」

「きめ細やかさ」は日本人の顕著な特徴です。
これは、通訳者として重要な要素でもあります。
空気を読み、原文に直接出ていない部分まで意図を汲み取り、コミュニケーションをサポートするなど、日本人の細かさや気配りは、通訳者として大きな武器になります。

しかし、その細やかさが行き過ぎて、心配性というディスアドバンテージとして表面化することがあります。
以下に具体例を挙げます:

・自分で判断できるような小さなことを逐一確認する
・複数の質問を小出しにして何往復もする
・すでに提供された資料に書いてあることを質問する

「細かすぎる質問」はコミュニケーションコストを上げる要因になります。

質問すること自体が問題ではない

もちろん、必要な情報を事前に提供するのはエージェントやクライアントの役目です。
与えられた情報が十分でない場合は、必要な情報を手に入れるまで求めるのが正です。
必要な情報を確認せず、当日になって問題が発生するほうがよほど大きなコストになります。
ですから、この記事で言いたいことは「質問するな」ということではありません。
必要な質問はするべきです。

ただ、私がなぜこれを言及しているかというと、コミュニケーションコストを意識していない通訳者があまりにも多いからです。
これはもちろん、一般のビジネスパーソンにも当てはまることですが、通訳者という職業においては特段クリティカルな要素です。
その理由を次に述べます。

通訳者はコミュニケーションコストを下げる立場である

通訳者は単に言語の変換をする存在ではありません。
コミュニケーションを包括的にサポートし、プロジェクトを円滑に進めることが役割です。
つまり、通訳者はコミュニケーションのスペシャリストであり、言い換えれば「コミュニケーションコストを削減する立場」でもあるということです。

当事者同士で言葉がうまく通じない。
細かいニュアンスが伝わらない。
言葉にはなっていないけれど、本当の意図として伝えなければいけないものがあるが、それが伝わらない。
たくさんの時間をかけてもコミュニケーションが成立しない。

このような状況は、コミュニケーションコストが著しく高いということです。

例えば、会議でうまく意思疎通ができず、お互いに同意したつもりになったとします。
しかし、その後に認識の違いが発覚してトラブルが起きる。
すると、そのトラブルを解決するために、またコミュニケーションが発生します。
メールを何往復もしたり、会議を再設定することもあります。

このような問題を解消するために通訳者が存在するのです。
企業にとって通訳者を雇うのはコストがかかりますが、通訳者がコミュニケーションコストをしっかり削減してくれれば、そのコストは元が取れる以上の投資となるわけです。

他人だけでなく自分自身のコミュニケーションコストも下げる

通訳者は、他者のコミュニケーションコストを下げる存在です。
ですから、自分とエージェントやクライアントとの関係も、コミュニケーションコストを下げるべきであるはずです。
エージェントやクライアントの視点から見ると、「自分自身のコミュニケーションコストが高い通訳者が、どうして他者のコミュニケーションコストを下げられるのだろうか」と思ってしまうわけです。

コミュニケーションのスペシャリストなのに、自分のコミュニケーションには無頓着。
そんな通訳者は信用されるはずがありません。
こういうところを、エージェントやクライアントは見ます。

だからこそ通訳者は、他者のコミュニケーションだけではなく、自分自身のコミュニケーションについてもプロフェッショナルであるべきなのです。
これが、通訳者がコミュニケーションコストを強く意識するべき理由です。

質問の前に一度立ち止まる癖をつける

通訳者として活動する以上、一から十まですべて懇切丁寧に説明してもらわなければ行動できないのでは困ります。

通訳者自身が、質問をする前に一度立ち止まって、
「これは本当に聞く必要があることか」
「これは自分で調べれば分かることか」
「これは自分で判断しても問題ないことか」
と考える癖をつけるとよいでしょう。
この習慣だけで、自分自身のコミュニケーションコストは大きく下げられます。

繰り返しますが、質問すること自体が問題なのではありません。
質問する前に一度立ち止まり、「本当に相手に聞く必要があることなのか」を考える。
これを意識できていれば、エージェントやクライアントからの信頼も自然と上がり、結果として仕事の獲得にもつながっていくでしょう。

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この記事を書いた人

INTERP合同会社代表。株式会社 S.H.C. Collaborationグローバル教育社外顧問。
横浜市と米国ダラスで幼少期を過ごし、現在はマルタ共和国を拠点に日本法人の経営を行う。
2011年より通訳者として活動を開始し、エネルギー、発電、国際イベントなど幅広い分野で実務経験を積む。現在は海外ビジネスの円滑化を目的に、通訳サービスの提供に加え、国際イベント支援や人材育成、情報発信にも取り組んでいる。

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