フリーランス通訳者が知っておきたいエージェントとの関係の築き方「後編:エージェントがもたらす価値とは」

31.フリーランス通訳者が知っておきたい、エージェントとの関係の築き方「後編:エージェントがもたらす価値とは」

直近の2記事では「フリーランス通訳者が知っておきたいエージェントとの関係の築き方」をテーマに、「前偏:良いエージェントの選び方」および「中編:エージェントに選ばれる通訳者になるために」をお伝えしました。

本記事では、その後編として、そもそもフリーランス通訳者にとってエージェントがどのような価値をもたらすのかを解説したいと思います。
筆者は通訳業界において長年、フリーランス通訳者として、そしてエージェントとして、両方の立場からこの業界に携わってきました。
その経験を通じて培(つちか)った知見をもとに、現場の実情に即してお伝えします。

この記事の目次

エージェントが徴収する手数料

エージェントが徴収する手数料は少なくありません。
一般的には、報酬額の30%前後と言われています。※脚注1
通訳者の立場からすると、「30%も取られるぐらいなら、エージェントを省いてクライアントと直接契約をすれば手取りが増えるじゃないか。実際の業務しているのは自分なのだし、エージェントが毎日何かをしてくれるわけでもない」と考えるのはごく自然なことだと思います。
筆者も、フリーランス通訳者時代は、同じように感じたことがありました。

一方で、エージェントの立場に立ってみると、30%という額は必ずしも高いとは言いきれません。
むしろ「この手数料では割に合わない」と感じることも少なくありません。

エージェントがもたらす3つの価値

では、エージェントがもたらしてくれる価値とは何でしょうか。
大きく3つあります。

①案件の獲得 
②契約時の業務代行 
③トラブル時のサポート

一つずつ見ていきましょう。

①  案件の獲得

近年はインターネットが発達し、LinkedInやLancersなどのプラットフォームを活用して、発注元と直接つながる個人も増えています。
しかしながら、企業が個人と直接契約を結ぶケースは依然として多くはありません。

理由は明確で、複数の通訳者を一括手配する際、企業が個人ひとりひとりと契約・支払いを行うのは非効率だからです。
また、大手企業の多くは、「個人事業主(フリーランス)と契約を締結しない」というルールを定めています。
この傾向は日本で特に顕著で、弊社がお付き合いさせていただいている大手のエネルギー企業や商社は、原則的に法人としか契約をしません。
大手企業がオファーする、大規模案件や高額報酬の案件は、そもそも個人では獲得できず、法人(エージェント)を通さないと受注できないものが多いのです。

②  契約時の業務代行

一度でも自分で契約交渉をしたことがある方ならおわかりでしょうが、契約手続きは簡単ではありません。

特に肝となるのは、契約書です。
クライアントに一方的に有利な内容になっていないかを見極める必要がありますが、契約書をしっかり読み解けるフリーランス通訳者は多くありません。
内容をよく読まずに署名してしまい、後々トラブルに発展するケースは少なくありません。
業務内容や報酬額だけでなく、キャンセル規定、契約解除の条件、機密保持の取り決め、損害賠償の責任範囲など、一般人には想定しづらいリスクが潜んでいます。

料金設定も、多くの通訳者が苦労する難所です。
特に経験の浅い通訳者は、「料金を高く提示すると断られるかもしれない」という怖れから、必要以上に低い料金設定をしてしまうケースが多く見受けられます。
また、見積書や請求書の作成、宿泊・交通の手配など、煩雑な事務作業も多く発生します。

これらの業務には、労働法や民法をはじめとする法務知識、料金や条件を交渉する折衝力、事務処理能力が求められますが、エージェントはこれらの業務をすべて代行してくれます。

③  トラブル時のサポート

実は、フリーランス通訳者が業務中に契約トラブルを経験することは少なくありません。
最も多いのはお金に関するトラブルで、支払いの遅延やキャンセル料の未払いなどが挙げられます。

このようなトラブルが発生した場合、クライアントと直接交渉し、自力で解決しなければなりません。
特にクライアントが海外企業の場合は、金銭面のトラブルが深刻化しやすい傾向があります。
国際裁判はハードルが高いため、個人での訴訟は現実的でなく、泣き寝入りになってしまうケースもあります。
その点、エージェントが間に入って交渉してくれることは、心強いサポートになります。

クライアントとの直接契約は「禁じ手」

「手数料がもったいない」と考えて、通訳者がクライアントに直接契約を持ちかけたケースが、弊社でも過去にありました。
このような行為は「禁じ手」とされ、業界でも厳しく取り締まられます。

エージェントとクライアントの契約には、通常、「直接契約禁止条項(Non-Solicitation)」と呼ばれる条項が盛り込まれます。
契約期間中および契約終了後一定の期間は、通訳者とクライアントが直接取引をしてはならないという内容です。
違反すると、通訳者だけでなくクライアント側も法的責任を問われることになります。
人材ビジネス業界において、人材は資産とみなされるため、このルールを破ってしまうとビジネスモデル自体が崩壊してしまうからです。
それだけでなく、三者の信頼関係にもひびが入り、今後の取引機会を失います。
ご本人にとっては軽い気持ちだったのでしょうが、大きな代償を招くこともあるので、くれぐれも注意が必要です。

エージェントのイメージと現実

「エージェントは、不当に高い手数料を搾取する中間業者」というイメージをお持ちの方も少なくありません。
エージェントが担う業務は、成果として目に見えにくいので、そう感じられてしまうのも無理はありません。

このような悪いイメージも、元を辿(たど)れば、悪質なエージェントがはびこったことが原因のひとつでしょう。
日本国内だけでも、人材ビジネスに携わる企業は7万社以上あります。※脚注2
この業界は参入障壁が低く、短期間で現れては消える水商売的な側面があることは否めません。
質の低い業者が業界全体のイメージを悪化させてしまったのでしょう。

しかし、すべてのエージェントがそうではありません。
誠実で、長期的な関係を築こうとするエージェントも数多く存在します。
良いエージェントを見極めるポイントについては、「前編:良いエージェントの選び方」をぜひご参照ください。

本記事が、エージェントがもたらす価値を理解する一助となり、そのイメージを少しでも変えるきっかけになれば、執筆者として、いちエ―ジェントして、この上ない喜びです。

通訳者として長く活動していくために、信頼できるパートナーとなるエージェントをぜひ見つけてください。

  1. 脚注:厚生労働省「令和2年度 職業紹介事業報告書/有料職業紹介状況等/マージン率等の情報提供について」( 2025年12月16日取得: https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000634367.pdf
    リクルートエージェント「(法人向けコラム/人材紹介手数料の仕組み」(2025年12月16日取得: https://www.r-agent.com/business/knowhow/article/28954/↩︎
  2. 脚注:厚生労働省「令和6年6月1日現在 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2025年12月16日取得:https://www.mhlw.go.jp/content/001464037.pdf
    厚生労働省「令和4年度 職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」( 2025年12月16日取得:https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001233791.pdf↩︎
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この記事を書いた人

INTERP合同会社代表。株式会社 S.H.C. Collaborationグローバル教育社外顧問。横浜市と米国ダラスで幼少期を過ごす。家族との時間とワークライフバランスを大切にするため、現在はマルタ共和国を拠点にリモートで経営を行っている。
2011年より通訳者として活動を開始し、現在は国際イベントと人材育成に注力。海外ビジネスの円滑化を支援するため、セミナーや情報発信にも積極的に取り組んでいる。

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