AI翻訳ではまだ事足りない、翻訳者が必要とされる場面

AI翻訳ではまだ事足りない、翻訳者が必要とされる場面

AI技術の発展は、近年目覚ましいものがあります。

金融、医療、IoTなどさまざまな分野で活用されていますが、翻訳業界も例外ではなく、AI翻訳が使われる場面が多くなりました。
しかし2022年現在ではまだまだAI翻訳では事足りず、翻訳者が必要とされる場面があります。

本記事では、AI翻訳がビジネスの場でどのような影響を及ぼしているか、また、翻訳者が今も必要とされる場面はどんなときかをお伝えします。

この記事の目次

AI技術の発展が翻訳業界に与えるインパクト

ディープラーニング技術

率直に、AI技術の発展が翻訳業界に与えるインパクトは甚大です。
2つの要素に分けて見ていきましょう。

① 翻訳クオリティの急速な進化

Google翻訳
Google翻訳の画面

ひと昔前まで、AI翻訳といえば「低品質の翻訳」と同義語でした。

旅行で使うならともかく、ビジネスシーンではほとんど使い物にならないというレッテルを貼られていました。 しかし、2016年にGoogle社が日⇔英翻訳システムにディープラーニングを取り入れたのを皮切りに、AI翻訳のクオリティは急速に進化していきます。

2022年現在のAI翻訳は、おおまかな意思疎通を目的とするのであれば十分な能力を有しています。

② 時間およびコストの大幅削減

今まで人間が莫大な時間とコストをかけて翻訳してきたものが、AI翻訳に打ち込めばわずか数秒で作業が終わってしまうのです。
しかも完全に無料です。

弊社でも、数年前までは数百ページにおよぶ翻訳文書を請け負っていましたが、2022年現在、その類の依頼はほとんどありません。

例えば、弊社で200ページのマニュアルを翻訳者1名で対応すると、納期は2~3か月後、料金は200万円~300万円です。(納期・料金は、文字数またはワード数で決まるのであくまで目安の金額)

スピードとコスト削減がますます加速する現代ビジネスにおいて、マニュアル翻訳ひとつにそれだけの時間とコストをかけるほど余裕のある企業は少ないでしょう。

社内用途であればある程度意味が通じれば十分でしょうし、社外・カスタマー用途であればAI翻訳に入れた文書をところどころ人間が手直しするだけで立派な翻訳文ができあがります。

AI翻訳と翻訳者の棲み分け

いまやAI翻訳は、現代ビジネスにおいて必須のツールに成長しています。

翻訳業界では、この流れに対して悲観的な声も少なからず上がっているようです。
今までプロフェッショナルとして仕事をしてきた人たちにはプライドもあるでしょうし、職を脅かされ
るというリスクがあるわけですから、当然のことかもしれません。

しかしながら、プラス面があることも見逃せません。
技術革新によって人間の負担が減るのであれば、その労力を他の作業に向けられる余裕が産まれるのでビジネス全体の生産性は上がります。

AI翻訳がどれだけ進化しても、人間が手を入れなければならないところはどうしても残ります。
機械に任せられるものは機械に任せればよく、人間に任せられるものは人間に任せればよい、という考えは今後主流になるでしょう。

翻訳者が必要とされる場面

では、「AI翻訳が進化しても人間が手を入れなければならないところ」とは、具体的にどのようなケースでしょうか。
以下、代表的な例を3点取り上げたいと思います。

① 公的文書の翻訳

戸籍謄本、住民票の申請用紙

公的文書とは、国や地方公共団体が発行する文書のことです。
具体的には、戸籍謄本や住民票、婚姻証明書などです。

ビザの取得などの目的で、公的機関(大使館や入国管理局)に公的文書を提出する際は、提出先に要望された言語(現地の言語または一般的に英語)に翻訳する必要があります。

その場合、AI翻訳は認められず、プロの翻訳者が翻訳した文書でないと受け付けてもらえません。

② マイナー言語の翻訳

オフィスでのミーティング

データを蓄積して学習するというディープラーニングの性質上、やり取りが少ない言語においてはデータが蓄積されずクオリティが上がるのに年月を要します。

例えば、「英語⇔ドイツ語」や「英語⇔スペイン語」などのAI翻訳はかなりクオリティが高いです。
やり取りされるデータ量が多く、また、同じラテン語由来の言語であるため文法や表現が似通っているためです。

試しに、「フランス語→日本語」や「アラビア語→日本語」をグーグル翻訳に入力してみてください。
英日翻訳のクオリティとの差が歴然です。

これから年数を経てデータが蓄積されていけばクオリティも徐々に上がっていくのでしょうが、ビジネスで使えるレベルに至るにはもう少し時間がかかりそうです。

③ 一般のビジネスシーン

会議中の様子

一般のビジネスシーンにおいても、翻訳者の活躍の場はまだまだ残されています。

AI翻訳は、「おおまかな意思疎通だけを目的とする」には十分ですが、それ以上を目的とする場合は十分でないからです。

AI翻訳の弊害は以下のような事例があります。

  • ビジネスメールにおいて、伝えたいメッセージが適切な表現になっておらず、ニュアンスがうまく伝わらない・誤解を招く
  • 契約書の内容が、複数の解釈ができるような表現に翻訳されてしまい、後から金銭面や条件面のトラブルが発生する
  • 重役宛のメールに失礼な表現がないかどうか自分では判断できない

例を挙げればキリがありませんが、ビジネスシーンにおいては、AI翻訳のクオリティでは十分でないケースの方が多いと感じます。

また、忘れてならないのはデータ流出のリスクです。
社内の重要データなどがどこから流出してしまうかわかりません。
人間翻訳であれば、翻訳者に渡すデータは秘密保持契約を締結しますので、データ流出の事故を避けることができます。

これからの時代も、翻訳者は必要な存在

弊社もクライアント様たちに対して、可能な限りAI翻訳を使うよう推奨おすすめしています。
本当に必要なところのみをお手伝いさせていただくことによって、不要な時間・コストを削減できるためです。

これからの時代も、翻訳者は必要な存在です。
求めるクオリティと時間・コストのバランスを考慮して、AI翻訳では事足りない場面で必要とされるでしょう。
うまく使うところのみ使う。
その傾向は今後ますます加速していくと思われます。

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この記事を書いた人

INTERP合同会社代表。28歳で通訳者としてのキャリアをスタート。50以上の職歴と複数の小規模事業の起業経験を通じて培った実務力を活かし、通訳にとどまらず、国内外のビジネスシーンで包括的な支援を提供してきました。「海外ビジネスの円滑化」と「関係者全員の利益と成長」を理念に掲げ、近年は人材育成に注力し、日本経済の活性化に微力ながら寄与したいと考えています。横浜市と米国ダラスで幼少期を過ごし、成人後は主に東京都、北海道、豪州シドニーに在住。2023年に家族と共にマルタ共和国に移住。

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